頑張ってそれら全てを平らげた。

つい最近食不足で生死をさまよった豪星には、とてもじゃないがそれらを捨てるという選択肢だけは取れなかった。

だから可哀そうな食物達よ、俺は敢えてお前たちと共に殉じようじゃないか。

大体お前達に罪は無いんだ、俺の所為で犠牲になったというのなら尚更と、口には出さずに覚悟を決めて、食物テロと殉死した、…死んで無いけど。

しかし、流石に豪星も辟易していた。

頭が痛い男に迫られる苦痛、つけられた上に個人情報の侵害、気分が悪くなる料理の振舞い、百歩譲って自分の迂闊な言動が現状を呼びよせたのだとしても、お釣りがくるだろうこれは。

(ちゃんと言おう…)

彼には言った所で何も分かって貰えないかもしれない、そんな人とまともに話合うのは正直怖い、だから敢えて何も言わず逃げていた。

けれど、最後の砦に迄入られてしまったのだ、もう話し合うしか道がない。それでも駄目なら致し方ない、警察にでも何にでもお世話になろうじゃないか。

「あの…」

批判の言葉をさらっと言えるタイプでは無いため、切り出しに言葉が濁る。

どうやって言おうかなぁ、と、視線を下げて、空になった茶碗を見つめていると、「なになにー?」と相手に催促された、余計に言いにくい。

「あのですね…!」

ええい、こういう時は勢いだ!と、漸く顔を上げたが、相手が予想に反した方を向いていた為、またぷつりと言葉が切れてしまった。

てっきりこっちを見ているのだと思いきや、イケメンは床の上を見下ろしてごそごそと何かを弄っていた。

不意打ちを食らって唖然とする豪星の目の前で、イケメンがのんびりとした声を上げる。

「あー、あったあった、…ごめんねダーリン、何だった?」

「あ、いえ、…何があったんですか?」

「うん、ダーリンのおうちに来たの、これもあげようと思って」

「あげる…?」

どうやら、イケメンは床ではなく、床に置いた自分の鞄の中を探っていたらしい。

あげると言って机の上に出されたのは、どこぞのブランド財布だった。

はい?と目を点にしている豪星の前で、イケメンはじぃっと財布の口を開いた。

中には万の札がぎっしりと詰まっていて、その厚みに目が飛び出しそうになる。

うわ!いいなぁ!と、思ったのも束の間、

「はい」

事もあろうか、イケメンは豪星が食い入るように見ていたその財布の中身を鷲掴みにし、全てを引き抜くと、豪星に手渡してきたのだ。

え?何々どういうこと?

「ダーリン、お金に困ってるんでしょ?お金に困って倒れるとかよっぽどやばくない?って俺おもって」

「は、ぁ」

「ちょっとしかないけど、あげる」

「え」

「だから、あげる、その歳でお金借りに行くわけにもいかないでしょ?」

「え」

「いいんだよ?俺達、恋人でしょ?」

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