「そんなことよりさぁ」
「ひぃ!」
恐怖に駆られ、部屋の隅まで後ずさりしてしまう。
何が怖いかって、常識から逸脱したこの男の口から次の言葉が出る、唯それだけで怖かった。
だが、何かを目の前に差し出された時、豪星は震わせていた身をぴたりと止めた。
差し出されたのは大きめの袋だった、半透明で厚みの無い、何処ぞの店名が書かれた、ごく一般的なレジ袋。
…爆弾でも入ってんのかな、いやでも、何か長ネギの頭っぽいのが見えるぞ、…ネギ型爆弾とか?
「ご飯つくってあげるねぇ?」
「ご……」
はん?
爆弾、と言われるよりも想像だにしなかった言葉に、豪星はぱちくりと目を瞬かせる。
「え、あの、ごはんて…?」
「うん、だってダーリン、ご飯ないんでしょ?なんか昨日、そんなこといってたじゃん?」
「え、まぁ、はぁ…」
「だから俺、つくってあげる、ちょっと待っててね」
「え?あ、…え?」
いそいそとキッチンの前に移動を始めたイケメンの背を茫然と眺める。そうしている内に、部屋の向こうからとんとんと食事を作る音が聞こえて来た。
「できたよー」
豪星が茫然としている間に、イケメンの手料理はちゃっと出来あがってしまった。
漂ってくるかぐわしい香りに盛大に腹が鳴った、最近の悪習の所為で、身体が食物に対して過激な条件反射を起こしている。
ああ、お腹空いた、…が、これは果たして、どういう状況なのだろうか?
ストーカーされて個人情報迄暴かれて、それから…ごはん?まぁでも、食べて良いなら…良いのか?
逼迫した家計と状況の危機を天秤にかけた時、僅かに前者が傾いた。
とりあえず、今の事態は横に置いて、出されるというのなら頂こうかとほんのり考える。
問題はまぁ、食べてからどうにかしよう、それからでも多分遅くは無いだろう…と、現金な事を考えた自分が馬鹿だった。
「どうぞめしあがれ」
「………………………………………………………………どうも」
目の前に並べられた料理…少なくともさっきまではそう思い込んでいた物を見た瞬間、豪星は顔を真っ青にさせた。
種類は、一般的な、米と、汁ものと、焼き魚、だけど、なにこれ、色がおかしんだけど、なにこれ。
ご飯と焼き魚が変に茶色いし、汁ものなんか、紫色なんだけど、え?目に優しく無いとかそういう次元飛び越えてない?
いやいやでも、混ぜ込みご飯と、ソースのかかった魚と、茄子のスープかもしれない。
ちょっと独創的な作り方をする人なのかもしれない、最近そういうの流行ってるみたいだし。
「い、ただきます」
尻ごみしつつも椀と箸を取り、豪星はとりあえず汁ものに口をつけた。
ず、と一口飲みこみ、そして………ばちん!と、箸を持っている方の手で口を押さえる。
(お)
おぇぇええぇえぇえええええ!!!
なにこれまずぅ!!しかも絶妙な不味さ!!
くっそ不味いのに食べられない程じゃないとか、妙な塩梅の不味さ!
ギリギリ食べ物だと認識出来る不味さ!すげぇ!
思わず吐き出しそうになったが、此処一週間の苦行の所為で身体がそれを赦さなかった。
気合いで呑みこみ、息を吐く。それは重労働に近く、身体から大層な力が抜けた。
ひとつだけどうしても確認したい事があって、豪星は力の抜けた身体を押してイケメンの方を向いた。
「あ、あの、すみません」
「はーい?」
「こ、こ、これは…茄子のスープですか?」
「え?味噌汁だよぉ」
みそしるだと!?
百歩譲って赤味噌だとしても青色は何処から来たんだ!
「身体に良いかと思って、ブルーベリーいれてみたんだぁ」
ぶるぅべりぃ!!?そりゃ良いな!目だけどな!広義で言えば間違ってないけどな!
「ダーリンと初めて会った時、俺、味噌汁作るって約束したもんね、直ぐに叶ってうれしいなぁ!」
「……………ちなみに、他の品目は?」
「ココアご飯と、焼き魚でーす!ソースは御飯に合わせてチョコレートソースにしてみたの、隠し味にカレー粉も入ってるよぉ?」
一応聞いた事の答えに、おぇ、と胸糞悪くなる。
ココアって米に混ぜるジャンルの物だっただろうか、魚のソースにしても良い物だっただろうか、カレーが隠し味って言うけど、ココアのインパクトに負けて完全に隠蔽されるし。
なにこれ料理なの?料理って呼んで良いの?
悩んだ所で、豪星如き凡人には、その答えが見つかりそうにもなかった。
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