アパートに辿り着いて直ぐ、盛大に咽返った。

学校から徒歩で20分、走れば10分強の距離とはいえ、休憩無しの全力疾走は中々にハードだ。しかし、これで漸く安心出来る。

息切れとは違う動悸が穏やかになっていくのを感じながら、豪星は湿った手でドアを開けた。

ノブを開くと、早速ととと!と何かが近づいてくる気配がした。

「次郎、ただいまー!」

ばっと両手を広げると、次郎がきゅーん!と高く鳴いて、豪星に飛びついて来た。

暫くは顔を舐めまわされていたが、一頻り舐め終えると満足したらしく、次郎が降ろせと豪星の胸を叩いてきた。

要望通り次郎を床に下ろし、ついでに部屋の真ん中に迄進入する。

荷物と上着を床に落とし、次に下、シャツを落として、下着姿のまま着替えを取り出す、軽く着替え終わってから、制服だけを拾ってハンガーにかけておく。

クローゼットを閉めた時、足元にもふりと柔らかい感触がした。目線を下ろすと、リードを咥えた次郎が尻尾を大きく揺らしているのが見えた。

「はいはい、散歩行こうな?」

言った途端、尻尾の振りが余計に激しくなった。心底嬉しそうな次郎にリードをかけると、豪星は再び部屋を出た。

外に出ると、帰った時よりも空が少し赤くなっている気がした。夕方だなぁ、と意味無く呟き道路の隅に迄移動する。

何時もならばそのまま散歩が始まるのだが、ある事を思い出してぴたりと足が止まった。顎を掴んで少しだけ考えた後、向きを変えて走り出す。

何時もの散歩コースは学校周辺を通るので、折角撒いた件の人に遭遇してしまう可能性があった、そんな事になったら厄介な事この上無い。

何時もの道に行きたがる次郎には悪いが、最悪は常に想定しておかなければならない。

後、ついでに求人募集を探しに行こう思った、次郎が居るので大した事は出来ないが、求人冊子を取りに行く位は叶うだろう。





想定出来ない事があるから、想定外という言葉があるのだと、豪星は今日身を持って知った。

「おかえりぃ」

立てかけてあった机が何時の間にか組み立てられ、そこにすっぽり足を入れこんだイケメンが、携帯を弄っていた顔を上げて挨拶を寄こしてきた。

しかも、恐ろしい事に、帰りを労う挨拶を、だ。

「もー、酷いよダーリン待っててねって言った癖に先帰っちゃうなんてぇ、俺汗だくじゃーん?」

「………」

「あれ?わんちゃんが居る、わーぉ超可愛い!飼ってるの?ねぇダーリン?…ダーリーン?どうかしたの?」

「………何で居るんですか」

下校時よりも吃驚し過ぎて何の捻りも無い言葉が出た。

(おいおいおい)

とりあえず次郎をゲージに戻してから、豪星は逸る頭で状況を分析し始めた。

学生証を盗まれてはいたが、個人情報云々のお陰で住所は書かれていない筈だった。

学校を知られたとしても近々夏季休暇だし、それまで気を付けていれば何時か相手が飽きて、それで終わる話になるのだと…思っていたのに、何だこの間も無いストロボ展開。

様々な思惑を飛び散らせる豪星を余所に、イケメンは持っていた携帯を仕舞って、「えー?」とさも可笑しそうに笑った。

「ダーリンがうっかりさんなのはもう知ってるから、俺ぇ、ちゃんと調べておいたのぉ」

調べた?ってことは付けられてた?

いやいやそんな筈は無い、自慢じゃないが足だけは速いんだ俺、あの速さを付けられていたのならあからさまに分かった筈。

じゃあ、何故?

「へへ、じゃーん」

何時ぞやに聞いた前振りを口に出してから、イケメンは仕舞っていた携帯を再び取り出し点灯させた。

その、画面に映った文字を見た途端、裂けそうな程目が開いた。

…俺の住所に見えるのは気のせいでしょーか?

縦に見る、横に見る、斜めに見る、じっくりと見る。

うん、何処からどう見ても俺んちの住所だ。

「…あの」

「はーい?」

「俺、住所を教えた覚えはありませんが」

「そうなのー、ダーリンのうっかりキングー」

「キングでもコングでも構わないんですけど、それより、…どうやって御調べに?」

友人か?

いやいや、昨日今日の付き合いで友人関係が分かるものか。

じゃあ、じゃあ、何故に?

「え?お金とツテがあれば出来るよ?」

………こ、

個人情報ぉおおおお!!

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