様子のおかしかった猫汰だったが、数分歩いた所で息をつき、ごめんねと言って豪星に振り返った。頬がちょっとだけ赤い。
「もう落ち着いたから…ごめんなんか、こういう事初めてで、ちょっと動揺した」
「えーと、前の彼女さん達にはあんまり祝って貰えなかったんですか?」
「……ダーリンのにぶちん」
「んん?」
「まぁいいや、それよりダーリン、そろそろ閉館時間になるからもう行こう」
「ああ、はい」
暫く歩くと出入り口付近に辿りついた、入った場所と同じ場所を通って外に出る。
時刻表を確認してから、バス亭の前に置かれたベンチの上に二人して腰かける。
大分時間があるみたいなので、次郎のリードををバス亭の軸に縛りつけて、付近を好きに歩けるようにしておいた。
「この後ウチに来ますか?」
手持無沙汰に話しかけると、猫汰が「んー?」と首を傾げてから、残念そうに振った。
「ううん、ちょっと用事あるから今日は良いや、へへ、ほんとはもっとイチャイチャしたいんだけどぉ、でも明日行くし、あ、それに、ダーリンそろそろ補習期間終わって、夏休みでしょ?そしたら」
「あ、そうだ」と、爛々と語る猫汰の言葉を、豪星は不意に遮った。
「ん?」
「夏休み入ったら俺、またバイトしようかと思うんですけど」
身体はもう健康そのものなので、猫汰の言った「暫く」の規約はそろそろ無効になっただろう。
それに、前とは違ってきちんと休みを取るつもりだし、猫汰から貰った金がまだあるので過剰な無理をするつもりも無い。
あと、猫汰にばかり金を出して貰うのが気分的に苦しくなってきたというのもある。彼と出かけるのが楽しくなってきたので尚更。
せめて自分の入園料とか、もう少しマシなプレゼントとか、必要最低限の物が自分で買える位には稼ぎたい。
此処暫くと今日、ゆっくり考えて出した結論だった。
「………」
「前みたいに倒れる迄はやりませんから、安心してください、夏休みならバイトしたって今と会う時間変わらないでしょうし」
「なにそれ、俺、一日ずっと一緒にいたいのに、なにそれ」
「え?」
急に顔を真っ白にさせた猫汰が、すっと豪星の腕を掴んできた、その力が強くて少し眉を潜める。
「良いんだよダーリン?お金足りないならもっと俺持つし、またダーリン倒れたら心配だし」
「や、あの、だからそこまで無理しないって…」
「いいから!」
「!?」
急に猫汰が声を荒げた、かと思えば伏せて黙り込む、豪星は何事かと目を丸くさせた。
「どうしました?」と伏せた顔を覗き込んで…ぎょっとする。
「…バイトなんかやらないでぇ」
猫汰が泣いていたのだ、しかも、ぼろぼろとかなり本気で泣いている。
慌てて拭える物を探したが見つからない、仕方ないので服の裾を持ち上げ、猫汰の目元を拭う。
「ど、どうしたんですか!?」
「うぇぇ…だ、だぁって、ずっと一緒に居たい、待ってるのやだぁ、ダーリンとずっと一緒にいたぃい」
「え?いえあの?どうしたんですか猫汰さん?」
「うぅう…お、俺、俺…ふ、うぇ」
尋ねても的を得ない返答を繰り返す猫汰に困り果ててしまう。
仕方が無いので、とりあえず足りない布を補う為のタオルを先に借りようとした。が、断りをいれる前に、がしりともう片方の腕を掴まれ前倒しになりかかる。
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