ぐい、と猫汰を抱えると、目的の場所迄何とか連れていく。
やたらと綺麗な花壇の端に置かれた、上と下に蛇口のついた水場の近くに猫汰を降ろすと、直ぐに水を出して猫汰の足を洗う。
「猫汰さんタオル持ってましたよね?お借りして良いですか」
「う、うん」
「どうも、…でも流石に消毒とかは無いよな」
ふっと植物園の売店を思い出し、その場に猫汰を置いて中に戻る。
さっと見渡すと、気が効く売店だったようで、最低限手当の出来る物が置いてあった。
それらを購入してさっさと戻ろうとすると、売店の人に「あ、お兄ちゃん」と呼びとめられた。
「花出来てるよ、どうする?」
花?花、…ああ、そういえば頼んでたんだった。
「あ、有難う御座います、頂きます」
往復するのも面倒なので、消毒などを小脇に抱えて花を受け取る。
アレンジブーケとやらは思っていたよりも小さな花束で、荷物の事を考えると却って丁度良いサイズだった。
戻ると、買って来た物を傍に下ろし早速猫汰の手当てを始めた。
未だ血の滴る足を濡れタオルでもう一度丁寧に拭いて、消毒を塗り、痛そうに唸る猫汰を「我慢がまん」と諌めて大きめの絆創膏を張りつける。
「よし、これで良いかな…」
粗方終えるとそれらしい出来あがりになった、頭上では、呆けた顔の猫汰が足を軽く振っている。
「…ありがとう」
「いいえ」
「…ねぇダーリン」
膝を折ったまま物を片付けていると不意に呼びかけられた、まだ痛むのだろうかと顔を上げたが、猫汰と目が合わなかった。
「これ、なあに?」
「これ?…あぁ」
手当の道具に混じった花束を手に取り、猫汰に差し出す。
「猫汰さん」
「ん?」
「こんな時にアレですけど、はいこれ」
「…え?」
「すみません、ぱっと見て決めちゃったんですけど、何も無いより良いかなって」
「もしかして…」
「はい、お誕生日おめでとうございます」
まだ膝を折っていたので、丁度猫汰を見上げるような形で花束を渡した。すると、猫汰が物凄い勢いで目を開いた後、―――ふるふると震え始めた。
「…ね、ねぇダーリン、わざとやってるの?」
「はい?」
「違うの?ちがうなら、俺どうにかなっちゃいそうだよ…」
えーと、やっぱり花なんか気に入らなかったかな?
そう思って、さっと手を引っ込めようとしたら、何故か手を叩かれつつ花束を奪われた、痛い。
「なにやってんの!?」
「ええ?」
「もう俺の!!絶対返さない!!」
「は、はぁ…」
いやまぁ、貴方に買ったものなんで構わないんですけど。
ていうか結局これって気に入ったって事?でも何か怒ってるみたいだし、なに?わけわかんね。
「…こんな事くらいで、こんな、馬鹿みたいだ、俺」
「…?」
「屹度ダーリンが馬鹿なんだ、ダーリンの馬鹿」
ぐるんと後ろを向いた猫汰が、豪星に背を向けたままぼそぼそと呟き始めた。
ぱっと聞こえた感じ、何か罵られているみたいだ。けど、相変わらず訳が分からないので何も言い返せなかった。
もう随分と調子が良いらしい猫汰は、急に立ち上がり、何も告げず歩きだした。
次郎がまだ植物園に居るのでその背を慌てて呼び止めたが、猫汰はぴくりとも振り向かず、さっさと歩いて行ってしまった。
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