「俺ね、今日誕生日なんだ」

「………え?」

大体の動物を見終えた後、涼しげな通りに出た所で不意に猫汰が呟いた言葉に素っ頓狂な声が出た。

「おめでとうって言ってくれる?」

立ち止まった猫汰が少し気まずそうな顔で軽く俯く。何でそんな顔をしているのか、気まずいのはこちらの方だというのに。

「そりゃ、もちろん、おめでとうございます、けど、いやもっと早く言ってくれれば…」

「…ごめん、気を使うかなって思って、でもなんか、楽しくてテンションあがっちゃって、おめでとう位は言って貰ってもいいかななんてついさっき思って、結局言っちゃって、へへ、ごめんね、プレゼントとかはほんとに気にしないでね」

「………」

この人何時もはガンガンに遠慮が無い癖に、変な所で謙虚だ。弁え方までおかしいとか、いっそ突きぬけて清々しい。

けど、この控え方が偶にうっとくる、何が、と聞かれると答えにくいが。

兎に角、誕生日が判明した以上、何か用意してあげた方が良いだろう。

いらないとは言っているが仮にも彼氏なんだし、宣告されて何もあげないのは変だし、後々自分が気にしそうだし。

でもお金無いな、やっぱりそろそろ働きたいな、どうしようかな…と、考えていたのが顔に出ていたのか、猫汰が焦ったように両手を振った。

「ごめんね!ほんとに気にしないでね、じゃ、いこっか、………、」

歩き出した猫汰がまた急に立ち止まって、くっと眉を潜めた。どうかしたのかと問えば、ゆるく首を振って「なんでもない」と言い、また歩き出す。

真っ直ぐに続く通りを歩くと、10分程した所で小道がぽっかりと現れた。ひょいと向こうを覗きこむ、すると、綺麗な通りと赴きの変わった建物が姿を現した。

「此処何だろう」

「何でしょうね?…えーと、植物園って書いてありますよ」

生き物繋がりだろうか、それにしても、此処だけ突出して綺麗なので浮き立って見える。

次郎が向こうに興味を持ったのか、行きたそうにリードを引っ張るので、自然とそちらに足が向かった。

「折角だし入ってみよっか」

「はい」

無人の入り口を抜けると中は部屋同士が繋がっていて、その都度色んな植物が見られるようになっていた。

主に熱い地域の植物が展示されていて、時折ちょっとした仕掛けなどが用意されている。

所々にある植物を次郎が食べて仕舞わないように気をつけながら、繋がった部屋を通り抜けていった。

「植物園なんて初めて入りました」

「俺もー」

日差しのよく入る部屋に入り、次郎と共に上を見上げていると不意に猫汰の気配が消えた。

きょろきょろとあたりを見渡すが、植物ばかりで見当たらない。大きな葉の影に隠れてしまったのだろうかと思いきや、意外な所から声が聞こえた。

声のする方、―――もう一度上を見上げると、何時の間にか天井の近くに移動した猫汰がこちらに手を振っていた。

「ダーリンみてみて、上もあった」

「………」

丁度、花が多く茂った場所の真ん中で手を振る猫汰の姿がやけに絵になっていた。もし豪星が女子だったならばうっとりと見惚れてしまいそうな具合だ。

思うに、猫汰は豪星の人間関係で一番顔の整った人だった。ほんとは芸能人でしたって言われても、未だに違和感が無いだろう。

そんな人と縁が出来て、しかも何故か彼氏なんかをやっているのだから、人生ほんとに何があるか分かったもんじゃない。

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