「ダーリン?」

「え、ああ、はいすみません、行きましょうか」

「うん、あ、あっちアフリカコーナーだって、はいってみよーよ」

猫汰に先導されながら、硝子張りの空間に入る、と、直ぐ、大きな身体が目前に迫ってびくりと肩が鳴った、サイだ。

「何か、久しぶりに見ると結構怖いですね…」

自分よりも大きな物が、硝子越しとはいえ近くに居るという事に、大きくなってから恐怖を抱くとは思いもしなかった。

ついでに、子供の怖い物知らずを今更実感した、恐怖心っていうのは成長と共に培うものなんだな。

「動物園で怖いだなんて、ダーリンかわいい」

「や、うん、可愛いはさておき、俺まぁ基本気が小さいんで…」

「そなの?」

「ええ、まぁ、自分の中で把握出来ないものは結構何でも怖いっていうか…」

人間も例外では無い、目の前に居る猫汰も、初めは悪魔に見えたものだ、今はそうでもないけど。

「じゃあちっちゃいダーリンの為に、ちっちゃい動物みにいこーか」

元悪魔がからかうように笑って、豪星の手を引き歩きだす。

アフリカコーナーを抜けると直ぐ薄青い建物に辿りついた、控えめに添えられた掲示板には「北極コーナー」と書かれている。

中はひんやりと涼しくて、此処も大きな硝子張りになっていた、唯、中に居たのは大きな動物では無く、小さなペンギンの群れだった。

次郎が物珍しげに硝子に近づいて、ふんふんと鼻をならしている、目の前でざぶんとペンギンが泳ぎ始めると、びくりと震えてまた豪星の後ろに隠れた。

飼い主共々気が小さいなと、苦笑しながら次郎を抱き上げる。

「うひゃー、可愛いねペンギン」

猫汰が意気揚揚とペンギンに近づいて全身をスマホで撮影し始めた、終えると、ぐりぐりとメールを打ち始める。

「誰かに送るんですか?」と聞けば「兄弟にねぇ」と笑って答えた。

「兄弟が居たんですね」

「うん、実家にいるよぉ、一人だけね、おにーちゃんなの、前にペンギン好きって言ってたから送ってあげよーと思って」

「へぇ、男兄弟良いですね」

「ダーリンは一人っ子なんだよね?」

「はい、でも男兄弟とかは憧れますね」

「じゃあ子供は男の子がいいねぇ」

待て何の子供だ、まさかと思うが自分たちか、待て待て産む気か。

突っ込みたい、突っ込みたいけど、何か「うん」とか言われるのも怖い、…止めとこう。

「そ、そろそろ行きましょうか…」

「うん」

冷房以外の理由で冷えた腕を摩りながら外に出ると、再び強い日差しに襲われた。

う、と呻いた豪星に気付いたのか、猫汰が「あっちにいこう」と近くの木陰を指差した。

有難く誘われて、木陰の下に置かれた椅子に座るとどっと汗が流れた。流石北極、同じ園内だというのに凄い寒暖差だ。

「あ、そうだ」

直ぐ隣に座った猫汰が唐突に呟き、自分の鞄から包みを取り出した。

「ダーリン、お昼にしよっか」

丁度近くにあった時計を見ると、短針と長針が丁度昼時を指していた。「良いですね」と頷き、豪星も自分の鞄から包みを取り出す。

中には先日猫汰と共に作ったおにぎりが二つ入っていた、形はいびつだが、メイドイン自分なので安心して食べられる。

「一個交換しよう?」

「……………」

口を大きく開けた状態で不意打ちを食らう。

無様な顔のまま暫く葛藤したが、今までを思えばダメージは少ないと前向きに考えて、残りのひとつを差し出し、相手のひとつを貰い受けた。

先に食べて終わらせてしまおうと、食べようとしていた自分の握り飯を置いて、貰ったばかりのソレを口に運ぶ。

そういえば猫汰は焼きおにぎりを作っていたな、その割には凄くマーブルな色してるけど、はてさてどんな味が…。

……おぇぇえぇえ、今日も絶好調に不味い。

「ダーリンのおにぎり梅干しだ、おいしい」

「…猫汰さんこの焼きおにぎりに混ざってる白いの何ですか」

「マシュマロー!」

無駄な捻りを加えやがって、このやろう。

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