男同士で動物園とかどうなんだろう、なんて、考えても今更なので何時も通り開き直って楽しむ事にした。

当日は現地集合にしたので、次郎をケースに入れ、バスを使って目的地に向かう。

バスが動物園の入り口付近に辿り着くと、豪星と共に数人がその場に降りた。

降りた数人は動物園に向かったり向かわなかったりとまばらに散って行く。

その波に乗らずバス停に立ち止まっていた豪星は、暫く辺りを周り見た後、入り口の前に立っている猫汰に気付いて手を振った。

向こうも豪星に気付いたらしく、ぶんぶんと手を振ってこちらに近づいて来る。

「おはよーダーリン!晴れて良かったねぇ」

「はい、おはようございます、あんまり暑くならないと良いですけど」

「大丈夫、俺熱中症対策ばっちりしてきた、タオルとかもダーリンの分あるから安心してね?」

「それはどうも」

「飲み物は重たくなるから園内で買おうね?」

「了解です、…あー、動物園って俺凄い久しぶりです、小学生以来かな?」

自分の背丈の二倍ある入り口を見上げながら当時の記憶を掘り起こす。

此処とは別の動物園だったが、赴きはとても似ていた、何処もこんな感じなのだろう。

昔はもっと大きな入り口に見えたものだが、今はそれ程でも無い、大きくなったものだ。

「俺もちっちゃい時以来かなぁ?此処じゃないけど、こういうとこって一人で来る所じゃないし、しょっちゅう遊びに来る所でもないしねぇ」

でもダーリンと来れて幸せ、とぴったりくっつく猫汰を暑くなっちゃいますからと体の良い理由で引き剥がし、とりあえずチケットを二人分買う、否、買ってもらう。

中に入ると直ぐ、ケースをロッカーに預け次郎にリードをつけた。嬉しそうにはしゃぎ周る次郎に合わせて奥へ進むと、益々懐かしい気持ちになった。

「写生大会とかも動物園でしたね、懐かしい」

再び当時の事を思い出していると、隣で猫汰が「しゃせい?」ときょとんとした声を上げた。

「お絵描き大会ですよ」と付け足せば、漸く納得したのか「ふーん」と興味深そうな相槌を打ってくる。

「俺が行った小学校動物の絵を描いて提出したんですよね、金賞とか銀賞とか、ちょっとした景品なんかもあって」

「ダーリンは何等だったの?」

「残念ながら貰った事はありませんでしたね、…むしろべっ等だったのかも」

絵を描く事自体は割と好きだったのだが、どうも自分には絵心が無かったらく、今でも持ち帰った絵を見た父親が「これはない」と呟いたひと言が忘れられない。

けれど何故かその絵は、その時住んでいたアパートにずっと飾られていた。

何で飾るのと聞いた所、「見てたら段々と味が出てきた」とか何とか言ってて、良くわからい気持ちになった覚えがある。

柵の方へ進むと、観賞動物が見え始めてきた。馬、羊、兎、モルモット、豪星が知っている動物園も初めの広場はこんな風だった、が、何となく…数が少ないような気がした。

そういえば休みだというのに、客の数がとても少ない。何処となく園内から廃れた匂いを感じて、辺りを意味無く見まわしてしまう。すると、余計廃退的な雰囲気が豪星の元に香って来た。

「何か、廃れてるなぁ」

ぽろっと口にすると、猫汰が「そうだねぇ」と同調した、どうやら同じ事を考えていたようだ。

「でもこういう所で毎年大黒字なのって、ネズミーくらいらしいよ?」

「まぁ、動物園に来るのなんて家族連れ位ですからね」

「あと恋人!」

「あーはいはい」

補足を強調する猫汰を軽くあしらってまた暫く歩くと、斜め前を機嫌よく歩いていた次郎がぴくりと震えて豪星の後ろに周った。

目先を見ると、大きく空いた穴の向こうで、虎が横倒れに眠っていた。

「次郎、大丈夫だよ、怖く無いよ」

抱きあげて頭を撫でると、漸く落ち着いたのかぷしゅー、と次郎が息を吐く、しかしまだ怖いのか、豪星の胸から降りようとはしない。

「うわー、虎可愛いね、猫ちゃんみたい」

ごろんと横になった虎を指差し猫汰がきゃっきゃと笑う。確かに同じネコ科なんだなぁと実感する程寝顔が猫に似ている。

虎はそのままの格好で寝そべったままぴくりとも動かず、ぐぅぐぅと気持ち良さそうに眠っている、客に営業する気はないようだ。

そういう習性なのか、それともただ暇なのか。

て、そりゃ暇だよな、エサは背後に用意されているから狩り行く必要は無いし、やる事も制限されているから後は遊んで寝るくらいか。

俺も勉強だけ抜けば同じもんか、…そろそろ働きたいなぁ。

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