「お前ら前と雰囲気ちがくないか?」

「…え?」

久しぶりに猫汰に連れて行って貰った光貴の店、扉を開けて直ぐ、店主が唐突にそんな事を言ってくるので、豪星は面食らってしまった。

お前等といわれたので、多分自分と猫汰の事を指して言われているのだろう、しかし雰囲気が変わったとはまた…、どういう事なんだろうか。

答えが出ずに渋い顔をしていると、隣で猫汰が「どういうことー?」と、豪星に変わって光貴に尋ねた。

すると、光貴は少しだけ首を捻ってから、「いやなぁ」と言った。

「ほら、なんか…仲良くなった?」

「やだなみつ、俺ダーリンと初めから仲いいよぉ?」

「はは、まぁそうなんだけどよ、うーん?」

光貴の言葉を冗談のように受け止める猫汰の隣で、豪星はああ、と声無く頷いた。

(俺の心境の変化の事かな…)

多分、光貴の言っている事は的を得ている。

あの料理の一件から、猫汰への精神苦痛が随分減り、豪星の心にゆとりを産んでいた、それが顔なり所作なりに出ているのだろう。

それを、傍目から見れば「仲良くなった」風に見えるという訳だ。

「今日は晩飯食ってくんだよな?」

「うん、…あ!そういえばねみつ、晩御飯といえば、最近俺達交代で晩御飯作ってるんだよー?」

「へー、あ、それでそんな風に見えたんかなぁ?」

「えー?何逸れみつするどーい」

「…ははは」

からかうように喋る光貴、語尾にハートマークを付けて喋る猫汰、その傍で、当たらずも遠からずと、一人渇いた笑いを零す。

促されて席に座ると、お茶とお通しが目の前に出された、早速手を叩いてそれを口に入れると、濃い目の塩味が口の中に広がった。

塩気を拭うようにお茶を飲み下していると、急にトイレに行きたくなった。

食べ初めて直ぐに行くのは失礼だな、と思いつつもちょと我慢できそうになかったので、仕方なく、楽しそうにやりとりしている光貴と猫汰の会話を「すみません」と軽く遮った。

「ん?どうした豪星?」

「ちょっと…トイレお借りしてもいいですか?」

「ああ、いいよ、行って来い」

「すみません、食事中なのに」

「気にすんな、スッキリしないと食事に集中できないしな」

「はは…じゃあ失礼します」

「おー行って来い」

咎められなかった事に安堵しつつ、豪星は席を立ってトイレに向かった。

「ところでよぉ、猫汰、頼みたい事があんだけど」

「えー?何々?」

「前々から忙しいのはこの所為だったんだけどよ、ついに手が足りなく…」

「なにが?なんか……の?」

「お前、…仮面って…か?」

背後から再び会話を始めた二人の声が聞こえて来たが、一歩進むごとに小さくなっていき、トイレに入ると完全に聞こえなくなった。

用を足して戻ってくると、猫汰が頬杖をついて唇を尖らせていた。光貴は光貴で、困ったように口をへの字に曲げている。

…楽しそうに話していたのに、こんな短い間に何かあったのだろうか?

「頼むよ猫汰、この通りだって」

「えーやだめんどくさそう、俺今ダーリンとラブラブするのに忙しいの」

「そういうなって、頼むって、お前が居るとかなり楽になりそうなんだよ!」

「やっだー」

「ねこたぁ…あ、そうだ!ほら、良いのやるから」

光貴が何事かを言って頭を下げ、カウンターの隅をごそごそし始めたのと同時に豪星が席に戻った。

それに気づいた光貴がひょっこりと顔を上げ、「グッドタイミング!」と笑った。

「おかえり豪星、お前も飲め!」

「え?」

光貴がそう言って、豪星の目の前に突き出してきたのは薄茶色の大きい瓶だった。

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