暫く中で話しこみ、昼が過ぎたらもう一度公園に行って夕方まで時間を過ごし、その後猫汰が折角だからと、再び光貴の店に誘われ夕飯を食べた。
二度目は長居せず、食べ終わったら直ぐに店を出た。光貴は外まで見送ってくれて、「またこいよー」なんて気さくに手を振ってくれた。
猫汰がぶんぶんと手を振っていたので、豪星も釣られて、軽く手を振り返した、猫汰に抱っこされている次郎も、猫汰に片手を摘ままれ手をふるふると揺らしている。
光貴は嬉しそうに微笑むと、すっと中に戻って行った。完全に光貴の姿が見えなくなってから、二人で夜道を歩き出す。
隣ではずっと猫汰が喋っている、豪星はあまり話題が無いので相槌を適当に打っている。思うに、最近ずっとこのペースだ。
「ねぇダーリン、今度はドッグカフェでも行こうか?」
「ドッグカフェですか」
「うん、犬同伴おっけーで、料理にも力入れてる所があるんだって、他にも色々美味しい店知ってるんだけど、じろーちゃんも一緒に入れないとね?」
「きゅーん」
「だいじょうぶだよー、置いてか無いよぉ、三人でデートしようね?」
「…猫汰さんは外で飯食うの結構好きなんですか?」
「うん、すきだよぉ?ちがう人の作ったごはんもおいしいよねぇ」
「へぇ…」
会話の最中、豪星は意味深な息を吐いた。ドッグカフェ云々とやらにはあまり興味は無かったが、その後の台詞に頭が食いついたのだ。
同時に、ある事を思いつく。内容自体は大した事では無かった、しかし状況を考えると、馬鹿に出来ない思いつきだ。
(やってみようかな…)
ただ、実践するにはそれなりの問題もあったが。
自分で料理を作ってみようと思う。
人の料理を食べるのも好きという事は、多分豪星が料理を作ったとしても猫汰はあまり嫌な顔をしない筈。
任せきりなのは悪いので分担しよう、とでも言えばそれらしいし、ほぼ同居しているようなものなので不自然も無い筈。
ともかく、案が通れば今まで食らっていたダメージの半分は軽減される筈だ。
だが問題は…豪星自身もあまり料理が得意では無い事だ。
カップ麺のほうが美味しいのでそれを食べるくらいには美味く無い。
しかも、以前料理を作ったのは、何時だったか思い出せないくらい前だ。
今までこの案を思いつかなかったのは、多分この所為もあるだろう、が。
(まぁ、あれよりはマシに出来るだろ)
適当に考えて、次の日、丁度猫汰が先に居なかったので、猫汰が持ち込んだ食材の残りに早速手をつけた。
野菜が多かったので、簡単そうな野菜炒めを作る事にする。
キャベツ、にんじん、もやし、ピーマン、あれやこれやと取り出し簡単に洗うと、適当に切ってボールに入れていく。
次にフライパン…が見当たらなかったので底で焼ける鍋を用意して、火をつけて、油を引いて…なんだ俺、手際いいじゃないかと、ちょっとうぬぼれたのはそれまでだった。
「あちっ!!」
野菜を入れた途端物凄い勢いで爆ぜ始めて焦った。
どうやらあまり水気をとらなかったのと、油をひきすぎたのがいけなかったらしい、油が飛びすぎて近づけない。
そんな隙を作ってしまった所為か焦げ臭い匂いがしてきた。
慌てて油と格闘しながらかき回す、が、野菜の焦げがそれだけで取れる訳も無く、結局手遅れに終わった。
若干へこみながら、出来上がった不細工野菜炒めを皿に盛り付ける。
ふと、もう一品何か作ろうかと思ったが、隣に置いた野菜炒めにやめておけと言われた気がして、思い留まった。
後は味噌汁と白米でもあれば大丈夫だろう、そう思って今度は味噌汁を作り出そうとすると、背後から不意に音が聞こえた。
振り返ると、「ただいまー」と、まるで我が家のように入ってくる猫汰の姿が見えた。
「ねぇねぇダーリン、今日はお蕎麦にしようと思っ……たんだけど何してるの?」
「…今日の夕飯を作ってます」
「え!?マジで!?うそうそダーリンが作ってくれんの!わーい!」
「…期待しないでください」
「ええー?無理もう超期待してる!」
猫汰は持っていた袋をそのまま冷蔵庫の中に入れると、「じゃあ俺、じろーちゃんとあそんでるねぇ」と、にこにこしながら向こうの部屋に去っていった。
その後姿を見ながら溜息をつく、ついでに、本当に期待してくるなよと、ネガティブな独り言も呟く。
その独り言が予言になったのか、洗った白米は粉々になり、試みた味噌汁は吃驚する程味が濃くなり、しかも、炊飯器のスイッチを入れ忘れた所為で、ご飯が出来ても結局全部冷めてしまった。
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