「…美味い」
「あ、美味いんだ俺の料理、良かった良かった」
「ねー!みつの料理もおいしいよねぇ!」
「だから同列に持って来られると…いやもう良い、てかお前、悪食かと思ったけど、俺の料理も美味いってことは、要は猫汰と同じような舌ってことか?」
「…舌?」
「味覚だよ、美味いの範囲が広いって言うか、な」
(ああ、成る程)
みつ―――光貴のお陰で、豪星は今まで疑問に思っていた事をひとつ解消する事が出来た。
猫汰は料理を作る度豪星と共に食事をしていたが、これだけ自分が不味く感じている物をどうして彼は平然と口に出来るのか何時も不思議に思っていた。
しかも、今日食べている光貴の料理も美味いと言う、矛盾しているかと思いきや…成る程、美味いの範囲が広いと来たか。
普通の料理を食べても美味い、自分の料理を食べても美味い、つまり、この人は料理が壊滅的なだけであって、味覚まで壊滅している訳では無いらしい…なんて、ややこしい人だな。
「豪星?」
「…ええ、まぁ、そういうことでしょうか」
豪星にそんなややこしい味覚は備わっていなかったが、そういう事にしておいた方が面倒が無いので適当に頷いておく。
「美味しいです、光貴さん」
四角いお盆の上に、唐揚げと、副菜と漬物と、白米と味噌汁が乗っている、オーソドックスだがとても落ち着くメニューだ。
端の味噌汁を手に取って、吸い込むと、ほぅと安堵の息が漏れた。
「お味噌汁も、美味しいです」
「おう、そら良かった」
「久しぶりに普通の具が入ったみそ汁を食べました」
「……………きかねぇぞ?何の具が入ってたかなんて、俺は絶対にきかねぇぞ?」
「あのねー、昨日はマンゴー入れてみたのぉ、美味しかったよぉ?」
「出汁も斬新でしたね…」
「渋みが出るかなと思って紅茶を煮出したんだよぉ!」
「…言うなっつうの、おぇえ」
味を想像したのか、光貴が口に手を当て真っ青になった、若干肩が震えている。話だけでこんな反応をするとは、想像豊かな人だ。
「みつー、この小鉢に入った白和え美味しい、何が入ってるの?」
「言った所でお前がその通り作るもんか」
「そりゃアレンジはするかもしれないけどー、レシピ無いとそもそもできないじゃん?」
「お前のはアレンジじゃなくて改竄だろ…別に料理自体は下手糞な訳でも無いのにどうしてお前の味付けはああなるんだ」
など、文句を垂れつつも、光貴は律義にメモを書き始めた。
(この人良い人だな…)
大体、準備中なのに入れてくれたり、開店していないのにご飯を作ってくれたり、あまつさえ次郎を入れてくれて、餌まで作ってくれている辺り、良い人を通り過ぎてしまいそうな具合だ。
ふと、光貴の視線を感じて豪星は顔を上げた。光貴は、じっとこちらを見詰めていたが、やがてへにゃりと笑った。
「まー何かアレな経緯だけど、付き合ってるからにはこいつ宜しくな?」
「…えーと、こちらこそ」
「ははは、精々励めよ青少年共、あと猫汰、初恋だってんならあんまりこじらせんなよー?」
「どーいうこと?」
「今までのお前ならともかく、今のお前見るからにマジっぽいじゃねぇか、始めての本気はめんどくさいぞー?ははは」
「本気でいいじゃん、だって大好きなんだもん!」
「へいへいごちそうさまです」
「あとさぁ、俺だけ本気みたいな言い方しないでくれる?忘れてないよね?ダーリンが告白してくれたんだよ?ねーダーリン?」
「…あーははは、そうですね」
訂正出来ない不穏な会話を受け流す為、豪星はもぐもぐとわざとらしく飯を頬張った。
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