「…初めて聞いた」

(俺も初めて聞いた)

「ていうかみつ、余計な事言わないで!ダーリン、確かに俺女の子といっぱい付き合ったけど、全部むこうがどうしてもって言ってしつこいからしかたなくで、それだけで、俺からってのは無いし、マジなのなかったし、そんなにながく続いたのもなかったし」

「…はぁ」

「あ、でも、ダーリンの告白は超嬉しかったから!俺も超本気で応えたから!だから俺もしかしたらこれが初恋なのかもしれない、ね?ね?信じてくれる?」

「…はぁ」

「お前ら人の店の前でホモるな」

「えー、なんだよ、みつだって人のこ……もごもごもご」

「…………………あーもう、ちょっと中入れ」

男は米神を乱暴に揉み解すと、準備中と書かれた扉を開いた。いこう、と猫汰につれられるまま中に入る。

中は狭く感じない程度の広さで、カウンターと、椅子が数席、後は、奥に一つしかないテーブル席が置かれていた。

雰囲気は喫茶店のようだが、所々に酒やつまみのメニューが張りつけてあるので多分居酒屋なのだろう。

飲食店ならば次郎は外に縛っておいた方が良いなと思い立ち、入り口付近に縛れる物が無いか探したが、見つける前に猫汰にリードを奪われた。

「ねぇみつ、わんちゃんも入って良いでしょ?」

「あぁ?お前飲食店なめてんのか」

「いいじゃん、ほら、じろーちゃんおいでぇ」

「おいおいおい…」

次郎を抱えあげた猫汰は、相手の返事も聞かずカウンター席に座りこんでしまった。

男は何度か注意をしたが、猫汰が知らん顔を決め込むので、その内諦めたように背を向け奥に入ってしまった。

豪星はその場で暫く呆けた後、少し迷ってから猫汰の隣に座った。

暫くすると、男が湯のみを持って現れた。目の前に、ことんとソレを置かれたので「ありがとうございます」と礼を述べる。

すると、男がぎょっとしてから、はぁ、と二度目の溜息をついた。

犬を連れ込んで礼なんていってんじゃねぇよ、という溜息だろうか、ならば礼など言っては不躾だったか。

「す、すみません飼い主俺なんで」

「は?」

「直ぐ外に連れて行きますから…猫汰さん、ほら、次郎渡してください」

「えー、いいんだよぉ」

「猫汰さん…!」

無理に腕を掴もうとした時、カウンターの向こうで「こらこらこら」と、意外な仲裁が入った。

伸ばした腕を止めて、振り向けば、バツが悪そうに頬をかく男の姿が目に映る。

「悪い、そういう意味で溜息ついたんじゃない、はぁ、犬はもう良い、好きにしてろ」

「さっすがみつ!」

「きゃん!」

「流石でも何でも良いんだけど、それよりさぁ…お前だよ、お前」

「え、あ、はい」

改まって視線を投げられ、困惑する。視線を投げた本人も困惑している様子だった。

「なんかな…猫汰の言いたいことは分かったけど、どうやってその結果に至ったのかわかんねぇから、簡単に経緯を教えてくれないか?」

「あ、ああ…」

確かに、傍目から見れば訳が分からない関係だろう、…しかし、どう説明したら良いものか。

金の為に付き合い始めました、…とは流石に言い難い。

男は根気よく待っていてくれたが、何時まで経っても口を開かない豪星にその内痺れを切らし「説明しにくいならお前が話せ」と、猫汰の方に話を振った。

「俺から話していい?ダーリン」

「あ、はい、…すみませんお願いします」

了承を振られて、二つ返事でお願いする。事の元凶である猫汰が説明した方が多分それっぽく話を進めてくれるだろう。

「よし、あのねー」

何処か嬉しそうに、猫汰は今に至るまでの経緯を説明し始めた。

豪星が食事不良倒れていたこと、その時に猫汰の料理を食べ、豪星が告白をしたこと。

それから、通い妻としてよろしくやっていること、今日は初デートで此処にご飯を食べに来た事。

ついでにお互いの自己紹介も、まるで用意されていた台詞のように話した。

その間、男は口を開けたままじっと固まっていた、多分色々な事に驚いているんだろう。

ちなみに豪星は、明後日の方向に飛んでしまった真実に思いを馳せていた、成り行きってマジ怖い。

聞き終えると、男は眉間に皺を寄せたまま豪星に視線を寄こしてきた。そして「お前は勇者か」と、言葉と共に尊敬の眼差しを向けられる。

「えっと、どういう…」

「こいつの料理を食って告白とは…」

(あー、なるほど)

確かに、他人事だったら自分も同じことを言っていたかもしれない。

「みつ、どういういみぃ?」

「い、いやいやなんでもない、けど、猫汰の料理が好きなら俺の料理食いにきてもなぁ…」

「なんで?みつの料理だって美味しいじゃん」

「同列に持ってこられると腹立つな、まぁでも…うーん、いいよ、飯食ってけ」

「あれ?いいの?忙しいとかいってなかった?」

「よく言うぜ、作らせる気満々だったくせに」

「へへ、いじわる言ってみた」

「ま、忙しいことには変わりないんだけど、ちょっとくらいなら大丈夫だろ、それと…お前の反応が気になるからな」

ちらりと、物珍しげな視線を寄こされた時、豪星はあれ?と首を傾げた。何やら、珍獣を見るような気配を不意に感じたのだ。

確かに珍獣なら隣に居るけど、…まさか俺じゃないよね?

「猫汰の彼氏になる位だ、お前も涼しい顔してアレなんだろ?」

………やっぱ俺か。

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