猫汰の言う公園とは此処から歩いて20分くらいの場所にあるらしい。
とりあえず豪星も知っているコンビニで落ち合い、そこから出発しようという話になった。
所定の時刻、車がまばらに止まる駐車場、入り口付近には人の姿が見当たらなかった。
早めに着いちゃったら中で待ってるねと言っていたので、もしかしたら中に居るのかもしれない。
次郎を適当な場所に縛り、特有の音を立てるドアを通ると、目的の人の姿は直ぐに見つかった。
じぃ、と目の前の陳列台を見つめている、どうやら何かを物色しているらしい。
「ねこたさ――――」
呼びかけようとして、不意に口が止まった、何か、背後から気配を感じたのだ。
不思議に思って振り返ると、数人の女子がこちらに視線を送っていた。否、こちらというか…あちらというか。
(猫汰さんみてんな、あれ)
ひそひそと、女子特有のさえずるような囁きが聞こえる。微かに聞き取れた内容は、「ちょ、あのひと」とか、「イケメンじゃね?」とか、現代の賛辞ばかりだ。
確かに、黙っていればとてもイケメンな人だ、雑誌から切り取られたんだよ、と言われても違和感が無いし、出で立ちの所為か存在感も半端無い。
人が羨む要素、逆立ちしたって手に入らない物をこれでもかと言わんばかりに持っているのに、…実際は棒に振られているというのが残念過ぎる。
あそこで囀る女子たちに、この人は料理が壊滅的で、しかもホモで、俺に夢中なんですよと言ったらどれだけの衝撃を受けるだろうかね、どうでもいいけど。
注目に巻き込まれるのが嫌で暫く女子が去っていくのを待っていたが、何分経っても彼女達はその場に居座っていた、むしろ囀る声が増すばかりだ。
お喋りが白熱して止まらないのだろう、こういう時は切欠の一つでも無いと、女子というのは解散しないものだ。
仕方が無いので豪星は女子が去る前に猫汰に近づいた。
案の定、女子の喧騒が更に大きくなる、「だれ」とか「ともだち?地味だね」とか、驚きとも批判ともつかない声が聞こえ始める。
「猫汰さん」
「ダーリン!」
そんな所に、彼が爆弾発言をかましてくれやがるものだから、一層気配が濃くなった。
「あーははは、相変わらず面白いあだ名ですよね!」
「え?なにが?」
「さぁいきましょう!次郎待ってるんですよね!」
「あ、ごめんごめん」
念のため、大きい声でフォローを入れておいたが、果たして効果はあっただろうか。
あっても無くても害はないけど、出来ればあって欲しいなと思った、…精神の労り的な意味で。
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