イケメンは夕食後も帰宅する事無く、風呂を借り寝床を借り豪星と共に次の日を迎えた。
朝になって漸く帰るねと言い出したが、朝食と弁当はきっちりと作って置いて行った。
たっぷり迷ってから、豪星は食物テロを朝食として食べ、弁当もどきを学校に持っていった。
幸い何を食べても腹は痛まなかったが、精神的な苦痛が酷く、次の食事までひたすら憂鬱であった。
先日の豪星では考えられない事だ、毎日本当に、何があるか分かったもんじゃない。
「凄いカラフルな弁当だねー、何?ついに彼女出来たのか?」
昼に食べる気のしないそれを開け、途方に暮れていると、席の近い友人が弁当の中身に茶々を入れてきた。
「…原野」
いいなー、と、羨む声は、羨望というより、どちらかというとからかいの色が多く感じられた。
「豪星にもこの世の春が来たか、良かったなぁ」
「…ははは」
「お?否定しないって事はマジなんだ?」
「………はははは」
否定したいのは山々だったが、否定出来ない要素の方が強くて、豪星は曖昧に笑う事しか出来なかった。
それを肯定と取った友人が、「まじなんだな!」と、本格的に豪星に絡んできた。
「なになに?どんな女?あ、こんな弁当作る位だからギャルだろ、ギャル!」
「…お」
「お?」
「……お、俺、ギャルとか気にしないし」
「やっぱそっち路線かー!」
「ははは…」
どんなも何も、男だ、と言いかけて止める。
男子校ならばまだ「あるある」ジャンルかもしれないが、此処は共学だ、男に告白されて付き合う事になったなんて言える訳が無い。
そりゃ、男子校でも共学でも、茶化して暴露出来る奴はいるだろうが、…自分には到底無茶な芸当だ。
下手にそんな事を口にでも出したら、次の日瞬く間に噂になる、嫌な意味で。
暫くなんとか、その手の話題を持ちこたえようと決心して、開けたままだった弁当から、多分卵焼きらしき物を取り出し口に入れる。
そして、うごご…とよろめきながら、ついでに胃袋も持ちこたえますようにと声無く願う。
「でさー、真理恵なんだけど」
何時の間にか、友人は豪星の恋人話を自分の彼女の話にすり替えていた。豪星の彼女云々は話の紐解きで、本来の話題はこっちだったのかもしれない。
やれ、彼女の容姿がどうとか、手を繋いだ時の反応がどうとか、今からの夏休みに海に行くんだとか、なんとか…言われて、ああ、と思い出す。
ちょっと慌ただしくて日の感覚が胡乱になっていたけれど、もう暫くしたら夏休みが始まるのだ。
外では既に、気の早いセミがミンミンと鳴いている、今年の夏休みは暑くなりそうだなと、ぼんやり思った。
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