「おいてめぇ!!よくきけ!!
俺はな!!お前が嫌いだ!!
いつもいつもあの人に甘えすがって、ぶらさがって!!
それでいいと思い込んでるお前が嫌いだ!!
お前の!!相手をまったくかえりみない無理解がきらいだ!!
お前の頭の悪さが嫌いだ!!
ふざけるな!!あの人はな!ほんとは甘えたい人なんだよ!!
親が死んでてダメ人間で!!それを乗り越えようとして辛かったひとなんだよ!!
辛かったことに泣いたんだよ!!
だから優しくなったんだよ!!
それをなんだお前は!あの人が優しいからっていつまでもいつまでもべたべた甘えこきやがって!!
ふざけるなふざけるな!!
俺は努力した!彼を支えられるよう毎日まいにち考えた!!
大好きだからだ!!
愛してるからだ!!
だから俺は!!いつも!!あの人にもっと好きになってもらいたくてがんばった!!
だから俺はむくわれるべきだ!いつまでもいつまでも!
俺が彼のことを愛しているかぎり!!
彼と俺が生きているかぎり!!

俺はむくわれるべきだ!!

その努力をかけらもしない!
お前のことが大嫌いだ!!」






先人いわく、幸運は結果を見なければ分からないものらしい。

例えばクジで一億が当たったとする。

普通はこれを幸運を見るが、もしこの一億が原因で不幸が起きたとしたら、それは結果として不運を当てたことになる。

先人いわく、幸運とは土と気候、それら含めた繋がりによって左右されるらしい。

例えば、とても不幸な人がいたとする。

けれど、その人はその時その場所にいるから不幸なのであって、その時その場所からいなくなれば不幸とは限らない。

先人いわく、運命とは変えられるものらしい。

たとえば、その人の言動、行動次第によって。







中嶋豪星(なかじま ごうせい)十七歳。高校生にして半ひとり暮らし。

豪星はとある問題に直面していた。それは、人生で最も重要かつ、窮地にあたいする問題だった。

その問題がなにかといえば、「金がない」だった。

お小遣いがないとかそういうレベルではない。生活費がないのだ。しかも、そんな状態が去年から続いている。

バイトの日数を増やしてもらったり、余裕のある時に貯めておいたバイト代を切り崩したりとでだましだましやってはいるが、いずれ赤字が出るのは目に見えていた。

そこにトドメを刺すかのように、来月、バイト先が店ごと無くなることが判明した。

本社の業績不振による急なテコ入れとのことだったが、近場で給与条件もそこそこ良かった上に慣れた仕事場が無くなるとあってはたまったものではなかった。

今月働いた分の給料は月末に払うけど、店舗解体スケジュールの関係で来週からは来なくて良い。ようするに「今週いっぱいでクビね」と言われたのも痛い。

貯蓄も金策もつきかけた豪星といえば、その時点である決意をした。

それがなにかと言えば、「もっと節約しよう」だった。

今でも充分ギリギリに切り詰めているのだが、もっと絞ることによって金のゆとりを増やそうと思ったのだ。

しかし、今の状態から節約できるものは限られている。その上で、豪星がなにを削ったかと言えば。

食費だ。

今までは、500円前後の弁当と150円のカップラーメンやパンを買って食べる生活をしていたが、これを、150円のカップラーメンやパンのみで暮らすことを決意した。

これならば毎食500円が浮く。このゆとりは豪星にとってとても大きかった。

そんな目先の欲におどらされ、豪星は「食費を削る」ことを甘く見ていた。

今までも、500円前後の弁当と150円の麺かパンひとつでは「ものたりないなぁ」と思っていたというのに、カロリーの高い方を削ろうとしている。そのことを甘く見ていたのだ。

思った時点では「出来る」と思っていた。なんとかなるだろうと。

だが、実際にやってみて、一週間が経ち、二週間が経ち、三週間が経ったところで。

―――――倒れた。

胃から爆音を響かせながら、豪星は人気のない道端に横たわっていた。

近所のコンビニに行こうと思い、ちょっと出かけた矢先。「なんだか眩暈がするな」と思った次の瞬間に倒れたのだった。

「人間ってこんな風に倒れることができるんだ」と、驚くほどの傾きっぷりだった。

思い当たるふしは滅茶苦茶にあった。食費を抑え始めてから、顔が段々青ざめてきたし、明らかに栄養が足りていないと感じていたし、毎日頭がふらふらしていたし。ようするに毎日非常に腹がへっていた。

しかし、まさかこんな道端で、それも突然倒れるとは思わなかった。

動きたくても身体が動かない。動いているのは異常になり続ける胃袋だけだった。

倒れながら、豪星は泣きそうになった。

なにやってんだろうなぁ俺。好きでこんな風になってるわけじゃないのに。

なんでかこうなってしまう自分の不運や境遇が、情けなくてしかたがない。

けれど、泣きたいのに目から涙が出てこない。泣くのにもカロリーがいるのかなと思ったら余計に情けなくて、もうこのまま倒れて死んだほうが楽かなとさえ思えてきた。

そんな風に思っていると、本当に目の前が白くちかちか発光し始めた。

発光した視界はやがてぼんやりとにじみ始め、それと同時に、豪星の思考をもくもくと煙らせていった。

本格的にやばい。

人間、栄養が取れなければ死に向かうのだと、豪星はこの時身をもって実感した。

地面に倒れながら、ぼんやり心臓の音を聞いていた豪星の元に、こつこつと誰かの足音が近づいてきた。

その足音は、豪星の間近にまでたどり着くと、すっと、横たわった豪星の顔に手を差し伸べてくる。

ぺちぺちと、その手が豪星の頬をたたいた。

「ねーきみ。どうしたの?だいじょうぶ?」

ぼやけた視界で見たその手が、そこだけはっきりと、白くて綺麗に見えたものだから、豪星は即座に「お迎えがきたのかな」と思った。

「おれ、天国に行くんですか?地獄に行くんですか?」

「なんのはなし?」

「親より先に死ぬと地獄行きっていうしなー……でも、あの人が生きてるかどうかなんて俺には分からないよ」

「なんのはなし??」

「まあいいや。天国でも地獄でもどっちでもいいので、行く前になにか食わせてください。はらへった……」

「なあに?おなかすいてるの?」

「しぬほどすいてます……」

「すぐ近くにコンビニあるんだから、なにか買って食べればよかったじゃない」

「その前に空腹でたおれました……」

「……それってさー、普段からあんまり食べてないって事だよね?

どうしてたべてないの?」

「金がなくてせつやくを……」

「節約して倒れてたら元も子もなくない?」

「ははは……そのとおりすぎる」

「ふーん……」

お迎え(?)さんは、豪星とひとしきり話した後。「そっかー。おなかすいてるんだー」ぶつぶつ、なんでもないことを呟いたあと。

ごそごそ、なにかを探るようなそぶりを見せてから、すぐ。

さっと、豪星の目の前に何かを差し出してきた。

「俺が作ったので良ければ、サンドイッチ食べる?」

作りすぎたから、おすそ分けに行くところだったんだよねー。と、のんきに喋る相手の目の前で、「さんどいっち!!」豪星はひっくりかえった声で叫び、残りわずかな力を使って飛び起きた。

その様子に、相手がちょっと驚いた様子だったが。

「食べる?」と聞かれ。

「たべる!!」文字通り、食いついた。

「どうぞ」サンドイッチが入った袋を差し出され、半ば奪い取る勢いで受け取った。

それから、動物のような勢いで中身をあさり、つぎつぎと食べすすめていく。久しぶりのまともな食事が、うまくてうまくてたまらなかった。

時折むせると、「お水どーぞ」お迎えさんが適時、飲み物をくれる。

「ありがとうございます!ああもう最高!美味すぎ!」遠慮なく受け取り水を飲み干しているさなか。

「そんなに俺の料理、おいしい?」お迎えさんが、そわそわした声で尋ねてきた。間髪入れず。「はい!めっちゃ美味しいです!こんなに美味いもの食べたの人生で初めてです!」今の喜びをストレートに表現した。

「そんなに?そんなに美味しい?」

「美味しいです!料理作れるひとってすごいですよね!彼女に欲しいです!

俺と付き合いませんか!?」

調子の良いことを言っていると。

「…………っ」

息を飲む音が聞こえた。

なんだろうと思い、栄養が流れて急激に開けた視界で相手を見ると。

そこで豪星も息を飲んだ。目の前に、とてもカッコいい人がいたからだ。

「うわ、イケメン……っ」驚いて後ずさりした時、「いっだ!!」後ろに迫っていた電柱に気づかず、思い切り頭をぶつけてしまった。

先ほどとは違う色の視界に襲われ、頭がぐわんぐわん揺れる。

「だいじょうぶ!?」相手が駆け寄ってきたが、その時にはもう時すでに遅し。豪星は打ち付けた衝撃と同じ勢いで、ぶっつり意識を失ってしまった。







目が覚めると。知らない部屋の中にいた。

ここはどこだろう。と、疑問に思いながら半身を起こした時。「いっ!たたた……、」頭の後ろがずきずき傷んだ。触ってみると大きなコブが出来ていた。

ますます状況が分からないでいると。「起きたー?」ぱっと、突然部屋の中が明るくなった。まぶしさに目を細めていると、照明をつけたであろう本人が、こちらに近づいてきた。

そして、近づいてくるなり。「わっ」豪星は小さな声で驚いた。豪星の傍に寄って来た人が、とてもかっこいい人だったからだ。

そこまで考えてから「あれ?さっき似たようなことがあったような」まで思い出し、そこから3秒、頭をひねって。

「――――あ!」ようやく、空腹で倒れていたところを誰かに助けてもらい、そのあと電柱に頭をぶつけたところまで思い出す。

頭が酷く痛むうえに、ベッドに寝かされている状況を顧みるに、おそらく今の状況は、「食事を恵んでもらって、更に気絶した豪星も助けてもらった」に違いない。そして、その相手は間違いなくこの人だ。

「あ、あの、えっと。おれ……」お礼を言おうとして、逆にしどろもどろしていると。

「だいじょうぶ?吐き気とかない?保冷剤取り変えるね」相手が、豪星が寝ている際に使っていたまくらに手をのせ、保冷剤を2、3個引っ張り出した。なるほど。これでコブを冷やしてくれていたのか。

「のどかわいてない?白湯いれてこようか?」

「あ、はい。すみません……」

相手は、カッコいい顔立ちをにこっと甘く笑わせると、一旦部屋から出ていき、数分後、手にマグカップを持って戻ってきた。

「はいどうぞ」

「ありがとうございます」

差し出されたカップを受け取ると、自分の冷えた手に熱がともった。

白湯は丁度いい温度に保たれていて、息を吹きかけずとも口にすることができた。

白湯をひとくちひとくち飲み進め、落ち着いたところで「あの。助けてくれてありがとうございました」ようやく、相手にお礼を果たす。

「どういたしまして」相手は、相変わらずにこにこ笑って頷いた。その笑顔のまばゆさに、顔の造形って性格にも現れるのかなぁと、豪星がしみじみ思っているところに。

「俺たち恋人なんだから。遠慮なく頼ってね?」

――――――――――――ん?

なにやら、耳を疑う単語が出てきた気がして、三回くらい首をひねった。

こい……こい……んん??

「そういえば俺たち、付き合うにあたってどういう風に呼び合えばいいのかなぁ?どっちも男だしねぇ」

「んんん??」

「あ、でも俺が料理を作るわけだから、俺が奥さんなのかな?

それじゃ、君がダーリンだね」

「んんんんん??」

「ダーリン。白湯飲み終わった?かたづけてくるね」

「い、いや。いやいや。あの、ちょっと。その前に。あの。すみませんちょっと聞きたいことが」

「なあに?」

「……お、おれたち、つきあってるの?」

「やだもー。ダーリンがさっき、俺と付き合いましょうって言ったんじゃない」

「…………」ものすごく頑張って、気絶する前のことをもう一度徹底的に思い返した。

すると……たしかに。言ったような言わなかったような……。

い、いやいやいや。冗談だよ?冗談の範囲で言ったやつだよ。そんなの真に受けられても。というかなんで真に受けられてるの?冗談だって普通わかるよね?ね?

「あ、あのう」

「なあに?」

「すみません。それ冗談で」「そういうジョークいらないから」

「冗談です」と言い切る前に「ジョーク」で一蹴され、目が点になる。

……え?なにこの状況。どういうことなの?

理解が追い付いていない間に、優しいゆきずり改め、なんかちょっとおかしい人は、豪星からマグカップをもぎとると、それを近くの棚に置いてから。

突然、豪星の膝に乗り上げてきた。

「うぇっ!?」吃驚し過ぎて変な声が出るも、「だーりん」相手が、甘い声で豪星の驚愕を遮る。

「あのね。俺うれしかったからさぁ」

「へ??」

「言ったことの責任はとってね?」

そう言って、豪星がひるんでいる隙に頬にキスされる。

唇は数秒で離れたが、豪星の思考は数秒ではもとに戻らず。たっぷり、数分ほど固まってから。

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