―――数日前。
「あー!!すみません!乗ります!乗りますんでちょっと待って!!―――いっでぇ!!足ぶつけた…っ…うそうそ!ほんとに乗るってば!ちょっと待ってーーー!!」
乗車の確認を始めた車掌が、訝しげな目で列車に駆け寄るツララギを見た。
その隙をついて、発車寸前の列車にどん!と転がり込む。入る勢いが良すぎて転びそうになったが、なんとか、片足で踏ん張った。
ギリギリ、地面に落ちる事は免れたが、反動で今度は喉がひっくりかえる。
急ぎすぎて落ち着かなくなった呼吸を、咳と共に落ち着けた。
「ま、まに、…まにあ…げほっ!げほっ!!」
背中を壁につけて、ずるずる座り込む。息を、思い切り吸って、吐いて、それを何度も繰り返した。
喉に血味が混じる程駆けたのは、思うに久しぶりの事だった。
「…だー!ったく!彼氏さん、いきなり乗れとか無茶ぶりだろ!」
乗ってる俺も大概だけどね。ほんと、咄嗟の判断とはいえなーにやってんだか。
しかも、この列車に乗るために5万蝗も使ってしまいましたよ。
昨晩、投資家に付き合うならば多めに金は持っていた方が良いだろうと持参した金が、こんな所で役に立つとは思わなかった。
ていうか、正直、こんな事で5万蝗も捨てたく無かった。
あれもこれも、元を正せばあのクソ投資家の所為だ。ひとの友人に誘拐かまして5万捨てさせるとか冗談じゃねぇぞ!!
あいつ、見つけたら絶対に捨てた5万ぶんどってやるからな!
あと、アスタの私用列車、切符代高過ぎだろ!なんだよ片道5万って!
あいつらの商売にはまけるという概念がないのか!
投資家だけに、負けるのが嫌だとか?わっらえねぇから!
思考の中で散々文句をつけた後、ふと現実に戻って辺りを見渡した。
ツララギが駆け込んだのは連絡通路で、アスタを思わせる赤と青の内装が特徴的だった。
立ち上がって、前と後ろに繋がれた乗客車両の内、近い方を選んで中に入ると、また特徴的な色合いが目に飛び込んできた。
「これがアスタの私用列車か…」初めて入る列車の内装を珍しげに眺めた後、空いている席の隙間に入り込み窓を開けた。
そこで、頭を左右に振りかぶった。車両編成を確認する為だ。
「…おー、結構車両あるな」
いち、に、さん…7、か8はあるかな。
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