「はい?」
「お前の事が好きなんだ。だから私と、結婚して欲しい!」
「え?なんのはなし?」
「結婚してほしいんだ!サノト!」
「…えーと?」
数秒間で投下された爆弾は、咀嚼するより先に、突っ込む部分がたくさんあった。あり過ぎだ。
「えーと。順序を考えようよ。告白の前にキスするってどうなの?」
「すまない。行動が先走った。だが責任は勿論取るぞ。だから私と結婚しよう!」
「えーと。あ、そういえば、俺の顔は好みじゃ無いって言って無かったっけ?凄く失礼な説明つきでさ」
「その通りだ。未だにお前の顔は全く好かない。しかしだな、私はどうやら、お前の性格が好きらしい。良く言うではないか、結婚は内面を見てしろと。だから私と結婚しよう!」
「えーと。もうちょっと簡単に言ってくれる?」
「お前が私の運命の人だと思ったんだ!だから私と結婚しよう!」
「えーと。――――お断りします!」
何回聞いても良く分からないから、もう訳が分からないままで良いや!それより帰ろう!俺だけ!それでゲームして課題して寝よう!
ちょ!抱き着くな!離せ!俺は帰るんだ!見送りならもう充分だ!
「サノト!愛してる!だから私の国へ一緒に行こう!そして私と結婚しよう!」
「離せホモ野郎!俺は帰って寝るんだ!もう勘弁してくれ!お前に付き合うのはもう嫌だー!」
叫んで離れようとするが、うっとり笑って抱き着くアゲリハの力が何故だと思う程強くて、離れる事が出来ない。
その揺るぎない拘束に、顔がさぁっと蒼褪めた。
「離せってばー!」
「ダメ却下!」
高らかに宣言すると、急にサノトを床に放り投げてから、アゲリハは踵を返して何処ぞへと向かった。
しめた!と思い、扉に近づくが「あ、あれ…?」扉の開け方が分からず、直ぐに外に出る事が出来なかった。
扉の前で暫く奮闘していたが、やがて、車体が大きく揺れ始めた。…まさか、この列車、動くのか!
間もなく、つい先ほどまで見ていた景色が反対になって窓に映る。
扉から、今度は窓に張り付いて、何処に行く気だと心配する。
その考え自体を覆されるのに、そう時間は掛からなかった。
「な…っ」列車から空に向けて、白い線が何処までも伸びて行った。
見渡せない程遠い雲の切れ間にまでそれが到達すると、真っ直ぐに延びた白線に、列車が、ガタンと音を立てて乗り上げて行く。
地面が遠ざかり、空がとても近くなる。
なんだろう、これ。
「…なんだよ、これー!」
結局飛び出たのは中身の無い一言だった。
それを、アゲリハが去っていった方向へぶつけると「緊急列車だ!」聞こえていたらしいアゲリハが、律儀に答えを返してきた。
「なにそれ!緊急なのは俺なんだけど!」
「そうだな!結婚したい時は急を要するものだからな!」
「そうじゃないから!俺の緊急それじゃないから!」
「そう不安がるなサノト!大丈夫だ!」
「何が大丈夫なんだよ!」
「私はこれから死ぬまで、ずっとお前のものだからな!」
「だからそうじゃないから!話聞いてー!」
「聞いてるぞ!私も愛しているからな!」
「だめだー!誰か助けてー!」
相手側の扉をこじ開けようとしたが、畜生!中で鍵をかけやがった!
手が出ないので、暫くは口で応戦していたが、その内嫌気がさして、それすらも止まってしまった。
吐きたくも無い息を吐いてから、ふと目を瞑る。
疲れた。
頼むから、家に帰って寝かせてくれ。もう疲れたんだって。
ねぇ。なんなのこれ?善行に休日潰して、散々な目に合った最後がこれって、何なの?カラスなだけに仇返し?…わっらえねーよ!
「サノト、聞こえるか?向こうで、わたしと一緒に幸せになろうな!」
―――ひとりでやってろ、馬鹿野郎!
【第1話完】
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