「それでサノト君。絵はいつ頃手に入るでしょうか?」

「明後日くらいに俺の世界に行こうかって話になってるんで、明後日以降から一週間くらい見てもらえば大丈夫だと思います。
あ、でも、画集って結構大きいから、買ってくるのは一冊二冊で良いですか?あっち帰ったらその都度なるべく買ってくるんで」

「もちろん構いません。君に無理のないやり方でお願いします」

「わかりまし……ん?」

外で人が窓を横切ったかと思えば、こちらをじっと覗き込んでくる。

その、覗き込んでくる人がやたらと美人だな……と思ったらアゲリハだった。

こんこん、指で窓をたたいている。

それから、アゲリハは窓を離れ、店の中に入り込んでくると。「サノト!約束の時間を過ぎているぞ!」ちょっと怒りながら隣に座りこんだ。

「おっと。もう40分が過ぎていましたか」ガィラが自分の時計を確認する。サノトも、店の壁掛け時計を見る。指定された時間からもう20分は過ぎようとしていた。

「悪いアゲリハ。ちょっとガィラさんと話し込んでた」

「異邦の絵をこっちに持ち込んで来いという話だろう?」

「その通りですよアゲリハ様。前述して頂いた通り、サノト君に快諾を頂きました」

「だろうな。それじゃあ、この珈琲はガィラが奢ってやれ」

「もとよりそのつもりです」

「えええ。すみません。自分で払おうと思ったんですど……」

「良い良い。大層なことを押し付けられたんだ。珈琲代くらいしっかり奢られておけ」

「大したお願いはされてないよ……」

「そう思っているのはお前だけだ。
さてガィラ。私たちは先に退席する。あとの始末は任せたぞ」

「心得ました」

珈琲と、まだ支払っていないお代をそのままに、アゲリハがサノトを店から連れ出していく。

その途中。「サノト君」呼び止められて、振り返る。

「二週間後の午前10時に絵を取りに伺います。差し支えはないですか?」

「大丈夫です」

「ありがとうございます。
それではお二人とも。ごきげんよう」

お互い片手を上げつつ店を退出し、個展会場の表側に戻ってアゲリハの車に乗り込む。

その時、後部座席に中身のつまった袋を見つけて。「なに買ってきたの?」訪ねると。「今日の夕飯の材料だ」アゲリハがほくほくと答えた。

「今日は両手がまっさらだからな。私が夕飯を作るんだぞ」

「おー。楽しみ」

「酒も買っておいたから、帰ったら開けよう」

「いいねいいね」

夕飯の話で盛り上がる中。徐々に移り変わっていく空の向こうへ、車が走り去って行った。

つづく。

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