そんな事ずっと思わなかったのに、最近、このままでは彼が可哀そうなんじゃないかと思うようになった。

雇用だなんだと、勝手にそういう事にしていたが、こんなに真剣に好いてくれている彼に真相を話してしまったら、可哀そうなんじゃないかと。

それに、多分真相を話した時、猫汰の反応次第では豪星自身も少なからずのショックを受ける気がした。

彼に慣れようと努力した分だけ、彼という人間に少なからずの好意を持ってしまったのだと思う。

第一、彼はぶっとんでいるだけで割と良い人だ、天使ではけして無いけれど、悪魔でも無い。普通に接すれば、謙虚で優しい所ばかりが目につく位だ。

そんな人を嘘をついていて、その所為で大いに泣かせるんじゃないかと思うと矢張り心が染みた。

しかし、だからといってどうする?彼が望むままに気持ちを受け入れるのか?

(それは、難しいな)

確かに好意は生まれたが、それはけして彼に触れたいという欲求では無い。

じゃあ、どうしようか?

いっそ真摯に謝る術でも考えようか?

それとも、このまま自然に友人になれる術を考える?

もっと別の方法を探る?

………。

…駄目だ、上手く考えが纏まらない。

いっそ、何も考えない期間を作ったほうがいいんだろうか。

今は状況を主観で見すぎている、考えを白くしてから改めて考えた方が適切な答えが見出せるんじゃないだろうか。でも、

「状況的に無理か…」

夏休み前日、コンビニに置かれた求人冊子を眺めながら豪星はとことん迷っていた。

こうした方が良いというのは釈然としているのに、時間と手段が中々取ることが出来ない。

要は猫汰と一緒に居ない時間を暫く作れば良いだけの話なのだが、猫汰は基本居たがりなので豪星の時間は絞られるままだ。

「距離を取りたい」と直接言った所で、絶対訳を聞かれるだろう。

その訳をどうにかしようとしているので、どうにかする前に話してしまったら本末転倒も良い所だ。

さてどうしたものかと、顎に手をあてていた時、ふと、求人広告の一部が目についた。

「短期アルバイト…?」

住み込み、飯つき、動物同伴OK、と書かれたそれを暫く見詰めて、ぱん!と手を叩く。

「これだ!!」

隣で雑誌を読んで居た人が、びくりと震えて振り向いた。





「用あって出かけます、心配しないでください…と、次郎、おいで」

置き手紙を置いてから次郎を呼ぶ。早速駆け寄って来た次郎を片手で抱えると、もう片方の手に纏めておいた荷物を持って部屋を出た。

何時もは出かけない時間に外に出たので、不安に思ったのか、豪星の胸で次郎が小さく鳴いた。

その頭をゆるく撫でて、「大丈夫だよ」と優しく語りかける。

「その内帰ってくるから安心しな、でも、猫汰さんには暫く会えないよ」

「きゅーん?」

「ごめんな」

一人になる時間が無いのなら、いっそ離れてしまえば良いと思った。時間もお金も取れる丁度良いバイトも見つけたので、渡りに船だ。

勿論、貰った金は必要最低限分だけ頂いて、残りをそこに残して置いた。

もしかしたら凄く酷い事をしているのかもしれないが、もっと酷い事を隠している自分には、これが精一杯の、彼に対する真摯な行動だと思いたかった。

でも、帰ってきたとき、あんまり傷ついた顔してないといいな。そんな事を思ったとき、ふと笑みがこぼれた。

(初めの俺に聞かせてやりたいな)

やっぱり俺、貴方の事が結構好きになってるみたいですよ、猫汰さん。

ライクだけどね。

【前編完】

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